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萩原朔太郎

萩原朔太郎 北原白秋に対する想いを綴った手紙

萩原朔太郎の北原白秋への手紙

酒飲みで一本気、文面も感情も乱れに乱れ、幻覚にも悩まされた。手紙を読んでいると萩原朔太郎という詩人は、くねくねと曲がっているというより、あちらに真っ直ぐ突っ込み、こちらに真っ直ぐ突っ込み、結果的にぐるぐるとさまよっている、といったような印象を抱かせる。

その「真っ直ぐ」の一つとして、ほとんど同世代の詩人である北原白秋に対する恋心にも近い感情があった。

以下は、萩原朔太郎の北原白秋に向けたラブレターと言ってもいいような強い想いの伝わってくる手紙(一九一四年、十月)である。

北原白秋様

わずかの時日の間にあなたはすっかり私をとりこにされてしまった、どれだけ私があなたのために薫育(くんいく)され感慨されたかということをあなたにはご推察できますか、

朝から晩まであなたからはなれることができなかった私をお考え下さい、一日に二度も三度もお伺いしてお仕事の邪魔をした私の真実を考えてください、夜になれば涙を流して白秋氏にあいたいと絶叫した一人のときの私を想像してください

(中略)

私はあなたを肉親以上の母と思う、私はかなりいろいろな人につきあったが不幸にして心から惚れた人はありませんでした(好きな人は多いが)室生君は始め僕に悪感をいだかせた人間ですが三ヶ月の後にすっかり惚れてしまいました、今では室生君と僕との中は相思の恋仲である、

こんな人はもはや二人とはあるまいと確信していたのがあなたに逢ってから二度同性の恋というものを経験しました、

恋といっては失礼かもしれないが、僕があなたをしたう心はえれなを思う以上です

(中略)

あなたの芸術が私にどれだけの涙を流させたか、その涙は今あなたの美しい肉身にそそがれる、真に随喜の法雨だ、心身一所なる鶯(うぐいす)の妙ていだ、私の感慨は狂気に近い、かんべんして下さい、あなたをにくしんの母と呼ぶ、

萩原朔太郎『萩原朔太郎全集 第13巻』より

まさに詩人のラブレターという圧巻の手紙。これほどの熱い手紙を送られ、北原白秋は一体どんな風に感じたのだろう。

ちなみに、この文中に登場する「室生君」というのは、詩人の室生犀星のこと。「えれな」は朔太郎の妹の友人で朔太郎がずっと好きだった女性を指す。

手紙の最後は、次のように締められている。

はじめ私はあなたをどこかこわい人だと思った、今ではなつかしくてたまらない人だ、逢いたい、逢いたい、

私はきちがいだ、あまり一本気にすぎる、そのくせおく病だ、憎い奴は殺さなければ気がすまない、好きな人は抱きつかなければ気がすまない、僕はここにいます

朔太郎

萩原朔太郎『萩原朔太郎全集 第13巻』より